経営課題を解決するファシリティ・CRE戦略マガジン

週刊 施設参謀

一級建築士、コンストラクション・マネジャーの資格をもつ
施設建築・運営管理の専門家がみなさんの疑問に答えます。

ブルー・オーシャンを探して ブルー・オーシャンを探して ブルー・オーシャンを探して

34

従来の建築プロジェクトは見直せる~日本にも大いに逆転のチャンスがあります

従来の建設プロジェクトを整理、見直してみる

前回、建設における「企画・建築・運用」という3つのステージを紹介しました。建築物をお客さまに引き渡して施設を活用する「運用」から、次なる事業発意を捉えて新ビジネスにつなげていく「企画」まで、つまり第3ステージから次の第1ステージに向かう事業運営サイクルで私たちが果たすべき役割を述べています。

今回は第2ステージである「建築」、すなわち建設プロジェクトそのものに焦点を当て、大きく変化する社会とニーズに対応するためには建設業界がどんな環境を整えればよいかお伝えしようと思います。

基本的な建設プロジェクトの流れを図解したのがこちらです。

「企画」が立ち上がり、建築物を建てることが決まると「発注図書」が作成されます。これにより内容に見合った設計会社が決まると、基本設計・実施設計が進んで確認申請がなされます。申請後に許可が下りる段階で施工会社の入札があり、予定価格内の予算でいよいよ着工です。施工が進み、建築物に命が吹き込まれる受電を経て設備の最終的なチェックが行われ、お客さまへの引き渡しと同時に「竣工図書」(各種書類・データを全て含む)も先方に渡されます。

1つのプロセスが終わってから次のプロセスに参加する企業を決め、建築物で展開する事業内容や具体的な構法なども走りながら決めていく。このスタイルが長年業界で主流を占めていました。プロジェクトの確定曲線(青線)を引いてみると、実施設計が終わった段階ですら決定済み事項が85%ほどで、残りの短い期間で慌ただしく15%を補完していました。

現在もこのような時系列で進む案件をよく見かけます。確かに「建築物を完成させたらゴール」というビジネスであれば問題はないかもしれません。しかし日々新しいテクノロジーが生まれ、ビジネスにスピードと柔軟性が求められる今、この方法でプロジェクトを進めていたら明らかに取り残されるでしょう。

どんな規模の建設会社でも改善は可能

第1の問題は、これからのビジネスの組み立て方にそぐわない点です。今求められているのは狙ったビジネスに即した施設であり、マーケットが変化しても即応できるような柔軟性を持った建築物です。初期の設計段階で今後の事業展開までを予測する必要があります。旧来のような建築物を建ててから事業を放り込むビジネスではもう立ち行かなくなっています。

第2の問題は、建築物を発注する事業者の要望に応え切れない点です。建設プロジェクトが進む間、事業者はキャッシュアウトするばかりで人任せの「危ない橋」を渡っている状態です。1プロセスごとに新しく参加企業や施設内容を決めるようでは支出の計画を立てにくく、かかる工期も延びてしまいます。「危ない橋」全般にかかる期間をできるだけ短縮し、プロジェクトの初期に全予算が判明し、なおかつ予算内で進行するのが事業者にとっての理想です。今までの方法では叶えることができません。

第3の問題は、スムーズに「運用」へつなげられない点です。運営会社は建設プロジェクトの最終期に決まり、事情をよく知らない状態で引き渡し後の施設運営を任されます。前回述べたように「運用」期は次のビジネスの芽を見つけて育てる大切な期間ですが、そこまでの成果はとても望めない行き当たりばったりの運用になってしまうでしょう。

これらを改善するのに有効なのは、プロジェクト初期の決定事項を増やして確定曲線を青線→黄線→赤線へ寄せる工夫をすることです。

例えば基本設計と実施設計、さらには構法/工法計画・生産計画・調達計画を別にするのではなく、並行して行う。そうすればプロジェクト全体にかかる期間が短縮できます。その際に設計会社や施工会社特有のアイデアをどんどん取り入れられる仕組みに変えてみる。設計段階に多くの知恵が集まれば完成後のミスマッチが防げます。また、施工や運営に参加する企業を初期に決めるようにする。彼らが最上流から関わればこのビジネスの収益化には何が必要か着工前に考えられます。

こういったサプライチェーンや業界慣習の見直しはどんな規模の会社でも可能です。

上流工程でできることを詰め、段階的に進歩を

建設プロジェクトのブラッシュアップは、以下の段階を踏むのが望ましいと考えています。

第1段階…この図解のように仕事の流れを見える化して現状を把握する
第2段階…確定曲線をプロジェクト上流に寄せるよう早期の決定事項を増やす
第3段階…進行中も新たなニーズを取り入れて柔軟に変更できる体制にする
第4段階…デジタルデータを使い、AIも活用して情報を収集・分析する
第5段階…デジタルと制度を上手に絡めて、工期を大幅に短縮する

私の感覚では6割近くの企業がまだ第1段階を意識されていないように思います。しかし東日本大震災後の復興事業では多くの企業がワンストップサービスを導入してデザインビルド方式が促進され、第2段階までが実践できる現場になりました。首都圏や大都市圏での応用も始まっています。この成果を後追いするように法律も変わってきました。

安倍政権時代は精力的に産業自由化に向けた新しい法律が制定され、今の政権もその姿勢を継承しています。テクノロジーとビジネスを飛躍のもとにする機運、法律の後押しがあるうちに、できれば第4段階や第5段階まで到達したプロジェクト展開を新しい業界コモンセンスとして定着させたいと思っています。2025年を迎えるまでが勝負です。

日本の建設業界なら「四方よし」を実現できる

企画、設計、施工、運用などさまざまなフェーズを担当する企業がコンソーシアムを形成してプロジェクトを展開する手法については、実は日本はとても先進的な存在です。大手ゼネコンがチームを率いる旧来の構図が土台にあるからです。

例えばアメリカでは情報のデータ化が日本より進んでいますが、コンソーシアムとして動こうとする際に細かな契約や規定に縛られるため、なかなかチームを形成するまでに至りません。ヨーロッパではギルドのような協会が多く確立しているので、それぞれの権利を擦り合わせるのが困難です。

中国や韓国には大手ゼネコンがあってプロジェクトをまとめやすい環境ですが、日本の建設業界はそれ以上の素地を持っています。その仕組みを生かしてサプライチェーンを現在のビジネスに合わせ、改革を行えば世界のトップに躍り出ることも可能なのです。

唯一のボトルネックは「それぞれの縄張り意識」が邪魔をしていることでしょう。設計は設計、施工は施工、と棲み分けるのではなく、重ねて合理化できるところは協力していけば建設プロジェクトは省略できるプロセスも増えてより円滑に回り、事業者のビジネスも格段にスピードアップします。

当社は主事業ではそのメリットを皆さんに伝え、各企業や各プロセスで最大限の能力を発揮できるように調整役を務めてきました。4月からは建設業界の企業がデジタルデータを活用するための新たなプラットフォームサービスを立ち上げる予定です。

私たちが目指しているのは「誰かが一人勝ちする世界」ではなく、三方よしを超えた「四方よし」を実現する世界です。ビジネス事業者よし、受注者(設計者や施工者)よし、施設を利用する(社会全体を含めた)お客さまよし、そして未来よしと言えるプラットフォームを創っていきます。

日本の建設業界にもまだまだ多くの可能性があり、逆転する方法はいくらでもあります。未来は、私たちがそれを実践できるかどうかにかかっているのです。

・記載されている内容は、掲載当時の情報です。予告なく変更する場合もございますので、あらかじめご了承ください。
・記載されている会社名、商品名は、各社の商標、または登録商標です。なお、本文中では™、®マークは基本的に明記していません。