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週刊 施設参謀

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2021年はデータ活用元年になる~ニーズと新事業のインテグレーションを目指せ

ニーズと建築物とビッグデータ、つなげられる人が成功する

コロナ禍に明け暮れた2020年が終わり、ようやく新しい年が始まります。この間に私たちを取り巻くビジネス環境は大きく変わりました。オンラインを活用した事業が増え、シェアリング・エコノミーやマッチングビジネスは一層隆盛になり、そしてすでにその先を見据えた新しい動きが始まっています。私たちも変容を常にキャッチアップして新たな事業に生かしていかなければなりません。

建設業界でいえば、従来は時系列に沿った企画・建築という2つのステージを完遂し、3つ目の運用ステージにつなげればよいとされてきました。お客さまが望む形で建物を造り、納品すれば終わりというビジネスです。しかし今は施設運用で得たものを次の事業発意や企画へつなげるプロセスが重要で、それを建築という成果物に落とし込むアイデアと手腕が求められます。いわゆる第3ステージから次の新しい第1ステージをつなぐ作業です。

このプロセスを私なりに図解したのがこちらです。

左端に成果物として「建築物」と「竣工図書データ類」が揃ったと仮定します。この運用が右方向に時系列で進んでいく間、ビジネスとしては「建築物を利用した事業運営/建築物を円滑に運用するための施設運営/不動産価値などの資産運営」が並行して行われます。

毎年の収支を見ると、事業運営が軌道に乗れば売上が伸び、施設の大規模メンテナンスが入れば支出が伸びます。施設運営に関しては中央監視システムや自動制御、BEMSのほか、RPAや完全自動マテリアル・ハンドリングなどを導入して支出削減も可能です。ただしこれが永久に続くわけではありません。運用中に次のビジネスを考え、そのための新たな施設の青写真を描く必要が出てきます。

図の再上層にある大小のバブルは、世の中にある「ニーズ/シーズ/ウォント/ウィッシュ」です。この中からパラダイムシフトの可能性を持つタネを見つけ、どう新事業や建築物に結びつけていくか。図の中央にある赤丸はその発想領域です。ここへの注目は建設業界ではまだメジャーになっておらず、かつこれから私たちが実現を進めるべき部分です。

ニーズとデータを結びつけられるのは「人」

ビジネスを始めるには、可能性を秘めたニーズやシーズを捉えて「このビジネスをやろう」という事業発意を呼び込み、そこから企画・建築・運用へ連結するプロセスが必須です。しかしこれは発注者(事業者)だけの仕事ではありません。むしろ私たち建設業界の者たちが率先して新しいアイデアを提案し、お客さまが思いつかなかった需要、まだ世の中にないビジネスを創出すべきでしょう。

そのために必要なのが、図中で左右を貫く真ん中の青い矢印です。

図中の青い矢印は上下のさまざまな要素と結びついています。これは左端の「竣工図書データ類」をベースに集積されるどの情報も、あらゆるプロセスと密接であることを表しています。

運用前にお客さまへお渡しする「竣工図書データ類」のほか、建築物からはさまざまなビッグデータを得ることができます。日々、お客さまの動線や施設の収支、利用傾向、技術的な情報などが新たに積み上がっていきます。これらを分析して再上層にある世の中のニーズと結びつけられるのは、発想力のある「人」だけです。

AIは決められたプロセスを高速処理するのは得意で、確かに私たちの一部の業務は任せたほうが速いかもしれません。しかし人の営みからヒントを得て思いも寄らぬ組み合わせを閃いたり、誰も予想しなかった効果を生み出したりする能力はなく、積極的に物事を観察してバラバラに存在しているタネを有効にインテグレーションできるのは、やはり「人」だと思います。

中央の大きな赤丸で囲ったエリアは、建設マネジメントにおいて誰も触れようとしなかった、いわば「ミッシングリンク」でした。ビッグデータを得るだけでなく、得たデータを他の事象や条件とインテグレーションしてビジネスにする。この方法は徐々に可視化され、「ミッシングリンク」は狭まりつつあります。2021年はさらに加速するはずです。

すべての資料をデータ化する習慣をつけよう

従来のようにただ建てるだけとは違う、企画から創出していく新しいビジネスモデルに参画するカギは2つあります。1つ目は「データ」です。この流れが主流になり始めたとき、タイムリーに対応するために最も効果的な手段は、手元にある紙資料のデータ化です。

現在、建設業界での資料データ化は全体量の3割に満たないと言われています。設計時のCAD/BIMデータなどは扱う企業が増えましたが、役所への提出物やデザイン関連、竣工図書データなどは大半が紙資料で流通しています。しかしこのままでは誰も必要なときに参照できません。検索するにも系統立てて保管されているケースは少なく、せっかく時間とお金をかけて作成したものなのに運用の現場で全く活用されていないのが実情です。

2021年はおそらく、5Gなどの通信インフラの急速な発達とともに、その情報流通量を生かした建設関連のソフトやアプリがたくさん登場します。例えば自動企画や自動設計にまつわる開発は実現化が近いと言われています。便利なツールが出たからと、そのとき慌ててデータ化を始めては遅い。今から準備を始めた人たちが次のビジネスで成功する世界に変わっていきます。

ひょっとしたら、IT環境やマンパワーの問題で一気に社内資料をデータ化するのは難しいかもしれません。しかし単に紙資料をPDF化するだけでも十分効果があります。今後はPDF上の文字認識技術が大幅に向上して、私たちが入力しなくても個別の数値に変換できる日が来るからです。ただそのツールを使うには最低限のデータ化としてPDFにしておく準備は必要です。膨大であればあるほどデータ利用が可能なソフトやアプリが登場した際にビジネスで大きくリードできるでしょう。

設計したらデータ化して残す。提出した書類もPDFとして残す。竣工図書もデータとして手元に残す。造って満足するだけでなく後々のビジネスのために必ずデータ化して保管する。今からでもその習慣をつけておいて損はありません。

設計の条件は、自分たちで発見・提案できる

新しいビジネスモデルの2つ目のカギは「人」です。前述したように、いくらAIが進化しても予想外の閃きや発想の力は「人」には及びません。まだ「人」が優位に立てる領域です。ただし、これは私たちがアンテナを張り続けてこそ磨かれるスキルです。

どうしても建設プロジェクトはお客さまからの条件ありきで発想しがちです。そこを逆転させて、私たちから「この条件が揃えばこんなビジネスができます」と提案し、新しい形、新しい組み合わせで建築物を企画していく。パラダイムを変えるようなアイデアを出せる人財や会社が重宝され、さらに業績を伸ばしていく。2021年はそんな年になります。

皆さんも、周囲に新しいニーズやシーズが転がっていないか、日頃から意識して気づくクセをつけると役立ちます。既存ビジネスに新しい要素を加えてできることはないか、この技術はこんなニーズに応用できないか、建物の役割をこう変えたらいいのではないか。見渡せば、考える材料に事欠きません。建設関連であればなおさらです。

コロナ禍で暗いニュースが続きました。しかしその影響でオンラインを介したサービスやテクノロジーは大いに発達し、新しいビジネスがどんどん増えています。5年前や3年前には受け入れられなかったアイデアでもスムーズに浸透し、大胆な取り組みが歓迎されやすい環境に変わっています。アイデアを形にするために無数のバリエーションを組み合わせられる、今が飛躍のチャンスと捉えてはどうでしょうか。

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