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週刊 施設参謀

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あらゆる要素を相互的・全体的に捉えよう~デザイン思考の先にある新手法のススメ

時系列に沿う思考法は本当に有効なのか?

ビジネスに工学的な視点が入り、さまざまな思考法やフレームワークが注目されるようになったのは21世紀になってからだと思います。しかし社会情勢もビジネススタイルも大きく変化し、私たちは新たな捉え方でビジネスを創り出さなければいけません。

コロナ禍後の社会が意識される今、私は「デザイン思考の一歩先」が不可欠になっていくだろうと考えます。具体的なヒントになったのは、2006年刊のダニエル・ピンク著『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代』(三笠書房)と当社の高木啓司が出した新刊『Intelligence 3.0』(幻冬舎)という2冊の本です。

デザイン思考とは、これまでにないイノベーションを起こすために「デザイン過程で用いる特有の認知活動」を非デザイナーでも応用できるようにしたものです。理解や共感を出発点とし、そこから問題提起を行って価値を見つけ、ビジネス・デザインに落とし込んでプロトタイプを作るのが基本型です。そこではユーザー中心の視点や協力者との共創、物的な実証や全体的な視点が求められます。

ただ、それらのファクターが時系列で並べられるため、時間を超えたファクター同士の相互関与や全体の俯瞰性が落ちてしまう欠点がありました。いつしか手法が目的になり、部分最適を極めるようになり、マニュアルに則って進めることが「是」になってしまう世界です。この考え方でビジネスを進めても大変革が予想される社会では生き残れないのではないでしょうか。

そこで私が提唱したいのは、デザイン思考で求められるファクターを2つの円に置き直し、常に相互を意識してインタラクティブに考え続ける方法です。

従来の「デザイン思考」を2つの円に置き直す

左の円は課題設定、右の円は解決模索のファクターです。それぞれの円内で継続的に思考するだけでなく、左右のファクターもそれぞれ時系列に影響されることなく相互に組み合わせて考えます。アイデアや創造を発想する際には「共感」の軸から外れていないか。プロトタイピングを検討する際には「情報分析」の結果がきちんと反映されているか。常に両輪を視野に入れながら回していきます。

ただ、この両輪を効果的に回すためには指針が必要です。デザイン思考ではそれを「インサイト」と設定しています。「インサイト」とは、人々がまだ気づいていないけれどあれば誰もが心を惹かれる革新的なポイントです。

例えば以前の私たちはレコードやカセットテープ、CDなどのモノを介して聴くのが当たり前でしたが、iPod出現後はどう変化したでしょうか。クラウドに存在するデータをその都度引き出して聴くなんて方法は、当時は誰も発想しませんでした。しかし、みんなが便利に使えるモデルであることは間違いなく、登場した直後から聴き方の主流になっています。このような需要と発想の隙間にある閃きがいわゆる「インサイト」であり、今後のビジネス創出にも欠かせないポイントです。

思考は現場で応用しないと意味がない

この「インサイト」を見つけて実際のビジネスに生かすために常に2つの円を意識し、目的と行動が外れていないかを検証し続ける。これが新しい形のデザイン思考だと考えています。そして私は、この新手法に実用性を持たせるさらなる落とし込みを行いました。この思考から発展した、マネジメントの現場で循環するシステムの構築です。

ここで使うのが先ほど述べた『ハイコンセプト』の概念と、それを両輪にアレンジした図です。著者のダニエル・ピンク氏は本書の中で「ハイコンセプト」という頭脳を使う論理的要素と「ハイタッチ」という情動に影響する感情的要素を挙げています。私はそれをもう一歩深めて、やはり時系列で変化するものではなく、ともに作用し合う両輪の概念で捉えるべきだと考えました。

左側に「ハイコンセプト」の頭脳面を置き、右側に「ハイタッチ」の感情面を置く。矢印は一定の方向へ動くだけでなく、それぞれの要素も影響していることを念頭に置き、現場をマネジメントします。ビジネス・デザインを実現化まで導く長いプロセスをやり抜くには、この方法が最適です。

今こそ「ストーリー」のあるマネジメントを

デザイン思考の実践には、「モノではなくコトでニーズを把握する」「ニーズの詳細を把握してアイデアを具体化する」という作業が必要とされます。しかし私たち建設業界はまだどうしても「建築物を作る、モノで解決する」という発想から抜け切れていません。

これからのビジネスは、アイドリングエコノミーやシェアリングエコノミーの隆盛でも分かるように、まずニーズを満たす「コト」を見つけ、それを具現化できる場所として「建築物というモノ」を考えるように順番を変えなければいけません。今回紹介している手法は、現場でそれを実践するための大きな仕組みになり得ます。

マネジメントというと日本では単なるテクニカルな手法で捉えられることが多いのではないでしょうか。しかし今後は人の深層心理や見えない心理まで動かすようなマネジメントが求められます。ここでの「人」はお客さまだけではありません。自社やパートナーとなる方々を含んでの「人」です。マネジメントで考える「ハイコンセプト/ハイタッチ」の両輪は、後者の「人」に特に作用します。

ニーズを満たす「コト」を見つけただけではビジネス・モデルにはなりません。「人」に共感してもらい、その実現に前向きになってもらい、さまざまな方面から協力を得て具現化するプロセスが不可欠です。デザイン思考では「インサイト」が両輪の原動力でしたが、マネジメントの両輪では「ストーリー」が原動力になります。

お客さまやその先のユーザーに何を提供し、皆さんどんなメリットを得られるのか。私たちはそのために何を行い、何を作ればよいのか。どんなゴールを目指すかという「ストーリー」がしっかりしていれば、全プロセスでチームのベクトルを常に検証でき、目的から外れないプロジェクト運営が可能です。それが実現すれば、これまでにないビジネス・モデルや成果物で社会に貢献できるでしょう。

山下PMCではすでにこの「ハイコンセプト/ハイタッチ」の両輪を行動指針(YPMC WAY)として取り入れています。積極的なデザイン思考の応用とこのマネジメント手法によって、すでに今までにはない革新的なプロジェクトの成果が出ています。

建築の過程で解説するなら、設計段階では設計者たちの世界で進んでいき、施工段階では施工者たちの世界で進んでいきます。段階ごとにそこに属する人たちが共感する「ストーリー」があり、チェックすべき項目があり、目指すゴールがある。取りまとめるプロジェクトマネジャーは、マネジメントの頭脳面と感情面の両輪をぐるぐると回して相互が矛盾しないように検証しつつ、各段階を進めます。

また、もっと全体を俯瞰した施主やユーザーを意識した「ストーリー」も存在し、それぞれの建築プロセスが全体の大きなベクトルから外れないように調整するのもプロジェクトマネジャーの仕事です。複雑な作業ではありますが、今後コロナ禍が落ち着いて人と人の交流が戻ってくる際には、身につけておかなければいけない手法ではないでしょうか。

幸い、時間はまだあります。当社でもこの手法をもとにした経験と実績は確実に増えていますが、社会変化に対応できる力をつけるためさらなる浸透を進めている最中です。

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