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週刊 施設参謀

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建築を取り巻く「天動説」を「地動説」へ~ビジネスが複合的に絡み合う場を提供する

建築ありきではなく、ビジネスに活用されるツールへ

コロナ禍による社会変化が始まってから、数カ月が経とうとしています。業種によっては大打撃を受け、厳しい財務状況でビジネスを続けている人も多いでしょう。しかし逆にニュービジネスを加速させ、新たなインフラを利用してビジネスを拡大する人がいるのも事実です。私たちには後者の仲間に入る余地がまだ十分にあります。

私は常々、近未来ビジネスの4つの動力源を提示してきました。

●未利用空間を活用する、アイドルエコノミー/シェアリングエコノミー
●パラダイムを変換させる、ニューインフラ/ニュービジネス
●IoTやAIから形成される、プラットフォームビジネス
●移動と交流から生まれる、対流ビジネス/マッチングビジネス

コロナ禍が終息した後もこれらは必ず大きなビジネスの要素となります。そして大切なのがこれら動力源と施設建築との関係です。

従来の建築物は、単一の業種や目的に沿って必要な機能だけを備えて建てられ、業界ビジネスの中心に据えられる存在でした。建物の周りをコアなビジネスが回っている、いわば「天動説」のような構造です。建物が古くなったら、スクラップ&ビルドの考え方で一度壊して再び新しい中心を建て直す、その繰り返しで発展してきました。

しかし、21世紀に入ってビジネスと建築物の関係は変わっています。

今、私たちが描くべき構造は「地動説」です。新しいビジネスが誕生した後で活用される対象として、建築物が存在する世界ができています。当初に想定した決まり切った使い道だけで運用するのではなく、刻々と変化していくビジネスに対応できる柔軟なツールとして建築物が求められているのです。

テクノロジーと社会の変化が建築物の役割を変えた

建築物はインフラとインフィル、そしてスケルトンの3要素で構成されていますが、すでに新しい潮流に対応し始めています。

例えばインフラは、自動搬送や自動運転を含むMaaS (Mobility as a Service)、自動制御の可能性を持つFaaS(Facility as a Service)、全てを一瞬で結びつけるブロックチェーン、自由化された電気やガス、さらに進化する5Gや6Gの技術などが台頭し、冒頭で紹介した4つの動力源を強力につなげていきます。建築物はインフラの進化を活用して新しいビジネスや人がつながる「場」としての役割を担っていくことになります。

その結果、大きく変化しているのがインフィルです。インフィルは建築物の内部を指しますが、インフラ技術の発展によって街全体を含んだ外の領域あるいは中間領域も意識してビジネスが行われるようになりました。中だけで完結するのではなく、中で包有されていたサービスや商品がさまざまな場所やニーズとリンクして広がっているのです。

「akippa」というサービスは未利用の空間をネット経由で貸し出す駐車場シェアリングビジネスを行い、特に都市部の車通勤者には好評で業績を伸ばしています。また、オンラインによる教育やスキルビジネスはサービス提供者の居住地を発信地に変えました。今後は場所を選ばないオンライン診療や医療相談などのサービスも展開されていくでしょう。

新しいビジネスの特徴は、さまざまなサービスとテクノロジーを複合的に絡めてニーズを作っている点です。建築物はそのつながりを維持する「場」の提供者です。1つの建物の中に多種多様な用途を含められる複合施設が求められ、対応可能な建築物には人が集まってビジネスの丁々発止の舞台となっています。

スケルトンの変化は、都市の軸を移動させて新たなビジネスを生み出しています。この現象には耐震性にまつわる技術の大きな躍進が関係します。まず1981年に施行された新耐震基準は日本の建物における耐震性の向上に貢献しました。「建物根幹にはダメージを与えず人を守る」という考え方を採用しています。2000年代に入るとさらに制振や免震の技術が台頭し「人を守ってさらに建物や内蔵物守る」という耐震性が実現しました。

この技術革新は建設業界に昔からあったスクラップ&ビルドの概念を変えました。建築物の強靱性・長寿性・安全性を強化したことで、インフィルを変化させながら長期間利用する施設運営が可能になったからです。これで建築物も都市インフラとして人口地盤の役割を果たせるようになりました。

同時に、東京では世界的に珍しい複数の都市軸が生まれています。例えば江戸時代の中心地は日本橋界隈でしたが、明治に入ると銀座に移り、昭和になると新宿・渋谷が文化を牽引してきました。2003年に六本木ヒルズができると、ここから赤坂、虎ノ門、新橋、汐留と「山の手」から「海の手」へ軸が拡がり、現在は豊洲やお台場などが注目されています。これまでの軸も含めた複数の都市軸が並立する文化は他の都市ではあまり見られません。東京ならではの現象であり、東京ならではの人の集い方・出会い方を構築しています。

これが実現したのは、海のそばという軟らかい地盤でも超高層ビル群を形成できるほど建築技術と耐震性能が向上したおかげです。ビル単体開発だった建築物は複合ビルという面開発に発展し、これからは面開発されたエリアが地域をまたいでつながる世界が誕生します。

都市のうねりは私たちにパワーをもたらしている

都市が軸ごと移動するような大きな環境変化の中では、人と人、ビジネスとビジネスのリアルなスパークが生まれやすいと言えます。移動した先の出会いや発想によってざまざまなビジネスモデルが誕生し、つながる可能性が高いからです。

都市におけるリアルな世界にデジタルやネットワークのテクノロジーが絡み合えば、マスの巨大なパワーになります。形成されるダイナミズムやエネルギーは私たちが発展するための大きなカギです。一極集中による力ではなく、変容していく都市と人のうねりによって新しいビジネスが生まれますし、むしろこのパワーでなければビジネスの発展は起こらないのではないかとも考えています。東京のような都市だけが持ちうるパワーです。

先頃発表された日本政策投資銀行の「訪日外国人の意向調査」によると、新型コロナ終息後に観光・旅行したい地域として日本は人気が高いといいます。今はまだ大変な時期が続いていますが、終息後に戻ってくるニーズは決して少なくありません。そしてコロナ禍の間でニーズが高まったサービスはさらなる伸びを狙っています。

私の周りにも変化したニーズを捉えてすでに新しいビジネスを準備している企業はたくさんあります。やはり共通するのは「ハードもソフトも1つに固執せず、アイデアや人をつなげて需要を作るビジネス」を始めている点です。建築物という「場」を捉え直し、従来とは違うつなげかたで活用する視点も一致します。

建築物は単なる居住スペースやオフィスという役割を脱して、マネタイズやサブスクリプションサービスを誘発させる場になるべきであり、呼応する建築物は増えています。コアビジネスからニーズやウォントが派生するビジネスモデルを実践したり、それらのコアビジネス同士のインテグレーテッド化を取り入れたり、建築物を媒介にしてビジネスを立ち上げるチャンスがまだあるのです。

また、日本では新規の発明が少なくなった、特許申請が減った、と悲観するニュースをよく見かけますが、実は世界のシェアを牛耳っているような日本発製品や素材はまだまだたくさんあります。それらをどこでどのように、誰へ向かってつないでいくか。変化を遂げた建築物の特性を生かしてビジネスパワーに転換していくことも今後の重要な課題だと感じています。

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