経営課題を解決するファシリティ・CRE戦略マガジン

週刊 施設参謀

一級建築士、コンストラクション・マネジャーの資格をもつ
施設建築・運営管理の専門家がみなさんの疑問に答えます。

ブルー・オーシャンを探して ブルー・オーシャンを探して ブルー・オーシャンを探して

29

有事にも必要とされる会社の条件とは?
過去に敬意を示し、未来を積極的に受け入れる

ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ

連休中に断捨離をしていたところ、高校の教科書で唯一手元に残していた「倫理社会」の資料集が出てきました。そこで鮮やかによみがえってきたのが「ミネルヴァの梟(フクロウ)」です。

ミネルヴァとはローマ神話における知恵と芸術を司る女神で、知性の象徴です。ミネルヴァの梟は彼女に仕えて世界中の知識を集め、その一部始終を報告する役割を担っています。哲学者ヘーゲルは1821年刊行の『法の哲学』の序文で「ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏に飛び立つ」と書きました。

調べ直してみると、ミネルヴァの梟には2つの解釈があります。1つはヘーゲルの主旨通りに「哲学というのは過ぎ去った時間の検証から初めて現れるもので、現実より遅くやってくる」「理論は現実の後追いしかできない」と哲学のじれったさを象徴していると考えるもの。黄昏時に飛び立って世の中の事象を見て回る梟は、昼と夜のように入れ替わる文明の変わり目には立ち会えますが、起きたことしか検証ができないという解釈です。

もう1つは経済学の研究者などが述べる「梟は一つの文明や既知の概念という昼が終わろうとする黄昏時に飛び立って、夜という未来へ向かう存在」「昼がどんな世界だったのか2つの大きな目で検証し総括する存在」と考える解釈です。

私は後者に着目しました。これから経済や社会生活が正常に回復したとしても、完全に元と同じ姿には戻りません。だからこそ、ミネルヴァの梟を「過去を見定めて次の時代に向かう」という戒めと捉え、過去に敬意を表し、未来を積極的に受け入れ、手に入れた知恵・叡智・洞察力は未来のために使うべきです。

混乱する状況下で考えてみたこと

数ヵ月前には考えもしなかった東京オリンピック・パラリンピックの延期など、現在、コロナ禍の影響で当たり前が当たり前ではない状況に陥っています。

暗いニュースが続きますが、気持ちを落ち着かせ、ミネルヴァの梟になったつもりで私の疑問・気づきを4つほど書き出してみました。

1.有事にも必要とされる会社の条件とは何か?
2.知識の「ストック」ではなく、正しい情報を「運用」するインテリジェンス機能とは?
3.10年に一度は有事が来るという前提で社会生活を営んでいるか?
4.モノや情報を集積して的確に届けるハブ機能を持っているか?

私たちの会社の存在価値

まず、1つ目と2つ目に関して。今後、厳しい競争環境はさらに激化し、私たちのクライアントもコストにシビアになり自前主義と脱自前主義に大きく分かれるでしょう。それに対応するためにも、私たちは脱自前主義のクライアントに確実に採用される実力をつけなければ、という危機感を持ちました。

企業は「そこにある」だけでは役目を果たしません。特に私たちのようなマネジメント会社がクライアントから「有事の際も絶対に必要なインフラ的存在」「知識を活きた情報に変換し運用するインテリジェンス機能を有する企業」として認識されるために、今後どのような価値提供をすればいいのか? またその価値を可視化するにはどうすればいいのか?

さらに3、4を実現するためは、1、2を確実に具現化し、長いスパンで私たちの活動を精査する必要があります。現在は改善すべき点が多々あると実感しています。

やってみないとわからないリモートワーク

3については、リモート化が大きな鍵を握るのではないでしょうか。みなさんの周りでもリモートワークが進んでいると思いますが、正直にお話しすると、私個人はまだ少し在宅勤務にアレルギーがありました……。やはり人と会って話すプロセスが大切だと捉えており、またそれが悦び・生きがいでもあるからです。しかし、今回の状況はそんなアレルギー・食わず嫌いを払拭するきっかけになりました。やはり、何事もトライしてみないとメリットもデメリットも体感できません。

なお、こういったリモート化が進むほど、従来の「都市機能/郊外機能/地方機能」の平準化が起こると感じています。もちろん、各機能の差異は完全にはなくなりませんが、空間に対する認識は個人でも社会通念でも明らかに変化し、企業としても対応を迫られるでしょう。

また、民間・行政を問わず、手続きのオンライン化はまったなしの状況にあります。苦しい状況にある企業・個人のためにも、今すぐ大々的な財政出動が必要ですが、アナログな手続き、システムの複雑化・散在がネックになっています。国内には潤沢な資産※があり、それを活用する制度ができつつあるのに、救える立場の人を救えないのは本当にもったいないことです。

※国内企業の内部留保は現在460兆円、個人(国内)金融資産は1850兆円あり、国際基軸通貨の国として潤沢な資産をもっています。

小さな取り組みかもしれませんが、当社でも、コロナ禍を機に、一部残っていた紙での承認作業を全て電子承認(ワークフロー)化しました。国や自治体ともなれば、当社とは比較にならない、目がくらむような膨大・煩雑な事務手続きやシステム統合の障壁などがあるでしょう。事情は理解しているつもりですが、有事の今は、できる限り早急な解決が望まれています。

入口と出口はより短縮される

4については、本コラムでも折に触れ述べてきました。ここ10年で私たちが手に入れ、大きく社会に変容をもたらした、リアルとデジタルを融合したサプライチェーンです。今後は、需要の入口(ポータル)と供給の出口(デリバリー)の距離をより短縮し、リスク対応力を強化することが求められます。

グローバルレベルではすでに新たな枠組でのサプライチェーン構築が始まり、製造業界でも本社建設より国内の生産工場や研究所の建設を優先する流れが生まれています。対応速度が企業によって異なるため、同じ業界でも半年後には勝ち負けがはっきりしてくるはずです。

デジタルプラットフォームやマッチングビジネスはさらなる進化を遂げるでしょう。オンライン診療や薬のデリバリーサービスはもとより、デジタル通貨の浸透、オンライン授業、車の自動運転などのビジネスも含みます。

リアルとデジタルを融合したサプライチェーン

これからの2年

経営者である私の予想としては、今後2年間で「新たな有事があっても揺るがないシステムづくり」が進むと考えています。おそらく半年は緊急対策や特定業界の救済が注目されますが、当社ではその間にリスクヘッジできるスキームを整えていきます。万が一、半年後や1年後に新たな有事があっても乗り切れるようにするためです。

その後に本腰を入れてシステム上の不備をなくし、状況が落ち着いて、整備された新しいスキームをサイクル化するまでは2年ほどかかるのではないかと考えます。

もう従来の方法に固執する時代が明らかに終わり、変わらなければ生き残っていけない状況です。私たちもミネルヴァの梟の目をもって大きな視座の変化を見据えていかなければならないと感じています。

・記載されている内容は、掲載当時の情報です。予告なく変更する場合もございますので、あらかじめご了承ください。
・記載されている会社名、商品名は、各社の商標、または登録商標です。なお、本文中では™、®マークは基本的に明記していません。