週刊 施設参謀 週刊 施設参謀

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縮小時代に求められる、「収入を生む」公共施設活用のアイデア

経済成長期に数を増やした公共施設の多くが、老朽化による大規模改修の時期を迎えています。公共施設再編の動きが始まりました。その時、施設を処分する社会ストックの縮小論ばかりではなく、うまく活用するアイディアが注目を集めています。これからの施設再編が、地方創生の鍵を握っていきます。

縮小時代の公共インフラをいかに維持・更新するか

国内の建設投資額は、1990年代半ばにピークを迎え、官・民あわせて80兆円超の巨大市場に発展しました。特に、1970年代の日本列島改造論に端を発した公共事業の進展は、急速なインフラ整備を必要としていた時代に、高度経済成長とインフラ整備を同時にかなえる方法として有効に働きました。90年代後半以降、建設投資額は減少を続け、特に公共の建設投資は、この10年ほどの間は概ね20兆円前後で推移しています[図1]。

[図1] 建設投資額の推移

建設投資額の推移

1990年代以降、建設投資額は減少を続け、近年は47 ~48兆円程度で推移。人口減少、少子高齢化などの社会情勢とも相まって、今後の建設投資額の大幅な増加は見込めないなかで、これからの施設再編の戦略を、官民の双方が考えていく必要がある。
[出典]国土交通省 総合政策局 及び 総務省統計局 統計データ 日本の統計 より作成

インフラは新設時だけでなく、維持・更新にも大規模な支出が必要となります。全国の地方公共団体では、かつて大量に整備され、老朽化したインフラを、少ない財源でどのように維持・更新していくかが大きな課題となっています。これからの公共インフラ整備はどうあるべきでしょうか。

既存の公共施設をすべて建て替えるとこれだけの費用がかかる

過疎地域を抱える、とある地方都市(A市)では、膨大に膨らんだ公共施設の数や規模、建替え時期を改めて調査し、建替え費用を試算したところ、近年のA市の普通建設事業費の約2倍の額が、今後50年間かかり続けるという驚くべき結果が出ました。A市では、間近に迫った建替え時期の始まりに備え、所有する施設の質・量の最適化に向けた検討を始めたところです[図2]。

[図2] A市の施設整備状況と将来の建替えのイメージ

A市の施設整備状況と将来の建替えのイメージ

A市では1960年ごろから公共施設の整備量が増加。
これらの施設の建替え時期のヤマは2020年ごろから始まるため、施設の量・質の
最適化に向けた早期の検討が必要となる。※A市公表資料をもとに山下PMC作成

限られた予算のなかで、どの施設を、いつまでに、どうやって、どのくらい減らせば良いのか。さらに、住民にとって必要なサービスレベルを可能な限り維持しながらそれを実現するにはどうすれば良いのか。これはA市に限ったものではなく、全国的な問題として広がりをみせています。2014年4月には、総務省から各地方公共団体に対し、公共施設の現況や将来的な経費や財源の見通し等をまとめた「公共施設総合管理計画」の策定要請が出され、2016年度までに、全ての都道府県及び政令市、並びに約98%の市区町村で策定される予定となっています(総務省HPより)。

人口減少や、それに伴う税収の減少にあわせた公共施設再編の動きは、自治体の財政の健全化を図る意味で非常に効果的であると考えます。ただ一方で、「将来にわたって活力ある日本社会を維持していく」という地方創生の目的を達成するためには、施設の削減だけではない、施設を再編して活用するアイディア、イノベーションが不可欠であるとも思うのです。

施設再編のカギを握る「収入をつくり出す」アプローチ

施設をはじめとしたインフラを適正に活用するためには、(1)収入をつくり出す[収入を生み出すフレームワーク(事業)自体をつくり出す]、(2)収入を上げる[建物の利用料などの収入を上げる]、(3)支出を下げる、という3つのアプローチがあります[図3]。(2)や(3)のような一般的なアプローチでは、A市のような危機的な状況を打開するためには不十分です。(1)のように、まず新規事業を創出し、それを見据えて施設のあり方を根本から見直すような「収入をつくり出す」アプローチが求められています。新たな事業が生まれれば、インフラ整備の支出は投資へと変わるのです。

[図3] 施設のライフサイクルコストと施設再生の3つのアプローチ

施設のライフサイクルコストと施設再生の3つのアプローチ

施設を有効に利活用するためには、イニシャルコストだけではなく、施設のライフサイクルでかかるトータルコストのなかで利益を上げる必要がある。(1)収入をつくり出す、(2)収入を上げる、(3)支出を抑えるという3つのアプローチが有効である。
※山下PMC作成

このような考え方は、民間ではすでに浸透し始めています。とある地方銀行の増改築プロジェクトでは、施設再編を機に従来型の銀行のような窓口機能だけではなく、銀行業務と直接関係なくても、地域の方やツーリストなどが集う機能や、行員と来訪者のコミュニケーションをうながす機能を設けることで、地域に新たなイノベーションを創発する機能を内包する施設へと生まれ変わりました。

背景には、銀行トップの強い想いがありました。地域経済が縮小するなか、自行が地域経済活性化のハブとなり、地域を支える新たなビジネスの創出をうながす役割を担わなくてはならない。そうしなければ、地域が衰退してしまう。こうした危機意識が、施設戦略にも反映されることになりました。まず事業に焦点を合わせ、その後に施設の在り方を問い直すことになった事例です。

地方創生で生まれる事業と連動した施設ストック活用を

[図4] 公共施設のポートフォリオ分析のイメージ

公共施設のポートフォリオ分析のイメージ

サービス(機能)的には不要な施設でも、建物自体の老朽化が進んで
いなければ、活用の余地はある。「収入をつくり出すアプローチ」により、
地域の施設ストックを、地方創生のハブとして活用できる。
※山下PMC作成

地方の公共施設には、老朽化が進み、建替えや取り壊しが必要な施設がある一方で、稼働は低いもののハードとしては問題なく使用できる、良好な施設ストックも多く残されています[図4]。単なる改修ではなく、地方創生で生まれる新たな事業と密接に連動するような施設ストックの活用を図ることで、地域に眠る施設ストックを地方創生のハブとして活用することもできると考えています。民間企業が施設再編を地域経済の活性化の起爆剤として位置づけたように、地方公共団体にとっても、今後の施設再編への投資は、地方行政のピンチをチャンスに変える絶好の機会であるともいえます。

さらに、「収入をつくり出す」アプローチは、官民連携がカギとなるかもしれません。地元企業が新規事業の担い手となり、地方公共団体が持つ優良なインフラを活用して、地方再生の糸口になる。経営的な視点から地方のインフラの状況を眺めたときに、私たちが、施設の再構築を通し、「地域の参謀」として果たすべき役割は非常に大きいのではないかと思うのです。